利用者中心の情報共有、管理によって質の高いケアをサポートするケア記録システム「ケアコラボ」。
2015年のリリース以降、全国各地100法人・600以上の事業所に導入が広がり、ICT化の促進にも寄与しています。
そんなケアコラボは、従来の請求業務を中心としたシステムではなく、「利用者を中心としたケア記録システム」という特徴を持っています。
なぜ、そうした考えをもとに開発を行ったのか。プロダクトに込めた思いや、日々の改善プロセスなどを開発チームの二人に語っていただきました。
ケアコラボ株式会社 プロダクトチーム
楠本 純平さん
介護や障害支援に関するケア記録を、いつでもどこでもかんたんに共有できる記録システム。
「記録の共有」による価値を最大限に引き出し、立場を超えたコラボレーションを実現している。
福祉業界の変革者とソフトウェア開発のプロ集団との出会い
ーケアコラボは、ICT活用協議会の会員でもある社会福祉法人福祉楽団からの依頼で開発がスタートしたそうですね。どういう経緯だったのでしょうか?
飯田さんはオランダの福祉事業所に見学に行った際に、ICT化が進んでいることに刺激を受けたようで、「自分たちも同じような介護記録システムを開発したい」という話をされたんです。
ただ、当時は福祉業界について詳しく知っているわけではなく、正直すごく遠い話のように感じていました。
ー多くの新規事業の立ち上げを支援してきたソニックガーデンでも、経験していない領域だったんですね。
その過程で、飯田さんから「現場に行きましょう」と言われ、実際に福祉楽団の施設に見学にも行きました。
その見学で、いい意味で驚きがたくさんあって、福祉業界に強い興味を抱くようになったんです。
ーどのような驚きがあったのでしょう?
私が勝手に抱いていたイメージとは、大きく違ったんです。
それから、施設内の運営、設計が緻密に計算されていることにも驚きました。
例えば、排泄物の匂いが残らないように、効率よく破棄できる導線が設計されています。
これだけ考えて運営がなされ、スタッフのみなさんも明るく働いているのに、ICT化が遅れているのはすごくもったいないと、飯田さんの思いに強く共感するようになっていったんです。
その見学を機に、開発を本格的に進めていこうと、より具体的な議論をするようになっていきました。
何のための介護記録システムを開発するかを徹底議論
ー開発の初期段階では、どのような議論がされたのでしょう?
つまり、実施した介護記録を元に、職員の方の経理業務を効率化するシステムです。
そうしたシステムも重要ですが、それだけがICT化ではないんじゃないか、といった議論はよくしました。
こうした議論を半年ほど、飯田さんや他のプログラマも含めて重ねていったんです。
そして、「事業所の利用者が中心となるシステム」にしよう、という結論に至りました。
ー利用者、ですか。
紙に書いてもすぐに棚にしまわれてしまうので、探すのも手間です。
こうした、ケアにおいて本来は重要な「利用者の情報」の共有や管理に着目したのです。
そして、利用者の健康状態、活動の記録などを一括で記録、管理できるシステムがいいのではと、話がどんどんまとまっていきました。
さらに発展して、Facebookのようにタイムラインで利用者の記録が表示される形にする、クラウドサービスにしてスマホやタブレットですぐに記録できるようにする、といった具体的な仕様が決まっていったのです。
ーSNSのような形で利用者の情報を管理していく、という発想は面白いですよね。
利用者がその一週間で何を食べたか、どんな健康状態を推移しているか、どこに散歩に行ったか、どんな話をしていたか…。
いろいろな記録が効率的に共有できることで、結果的にケアの質の向上にも繋がっていきます。
「業務の効率化だけではなく、ケアの質を向上するシステムにしよう」という考えが、ケアコラボの根底にはあるんです。
こうした考え方を開発初期の段階でしっかりと議論できたのは、大事なプロセスだったと思いますね。
ー何のためのシステムなのか、を最初に決めるのは重要ですよね。でも、最初は「ケアコラボ」としてリリースすることは想定してなかったのですよね?あくまで、福祉楽団が使うシステムとして開発がスタートしたはずです。
ただ、プロトタイプの開発を進めて、職員の方からも意見をいただく中で、「これは福祉楽団の中だけで使うのはもったいない」という話になったんです。
それで、福祉楽団やソニックガーデンが出資する形で会社を立ち上げ、「ケアコラボ株式会社」として運営を行う体制を整えました。
ー面白い経緯ですね。飯田さんのように、当事者として福祉の現場の変革を目指す方と、ソフトウェア開発のプロ集団が出会うことで生まれたのがケアコラボでもある。
そうした流れがあって、飯田さんと出会え、ケアコラボの開発に携われたのは自分自身、とても大きな出来事でした。
ケアコラボ開発に居場所を見出した若きプロダクトオーナー
ーリリース後、反応はいかがでしたか?
福祉楽団は他の法人とも繋がりが多く、考えに共感してじわじわとケアコラボの導入数が増えていきました。
福祉業界は、横の繋がりが強いのも特徴ですよね。
言ってしまえば同業他社にはなるんですけど、お互いに知見やノウハウを惜しみなく共有しあっていて、すごいなと思います。
ーケアコラボ株式会社が設立されたのが2015年で、徐々に社員も増えていったそうですね。その1人が、プロダクトオーナーを務める楠本さん。今は、どういった役割を担っているのでしょう?
お客様からいただいたフィードバックをもとにどのような改善を行うか、新しい機能としてどのようなものが必要か、といったことを考え、優先順位をつけながら開発をとりまとめています。
ー以前はソニックガーデンにいて、ケアコラボに転職してきたと聞きました。
ただ、プログラマとしての成長に疑問を抱く日々が続いていて、少し違う領域にも挑戦しようとケアコラボに2年間限定で出向という形で働いていたんです。
その期間で、ケアコラボを開発していく楽しさに気づき、出向ではなく正式にケアコラボの社員となりました。
ーどういったところに楽しさを感じたのでしょう?
自分が活躍できる居場所を見つけた、という感覚もありました。
加えて、ケアコラボは社会的にもすごく意味のあるプロダクトでもある。
この先もケアコラボを成長させていくことに、全力で取り組みたいと心から思えたんです。
お客様がケアコラボを一番よく知る先生
ーなるほど。だから出向ではなく、転職をしてまで本気で取り組むことにしたんですね。お客様のフィードバックはどのような形で受けているのですか?
ただ、最近はありがたいことに導入数も増えてきたので、チャットワークではなく、投書箱といった形でフィードバックをいただくようにしています。
ケアコラボにログインして、「改善に協力する」というボタンをクリックすると匿名で情報を送信できる仕組みです。
ー「協力する」っていい言い方ですね。
実際に、福祉の現場でケアコラボを使っているお客様が、一番プロダクトについて知っているはず。
ですから、先生であるお客様に協力してもらいながら、一緒にケアコラボをよくしていくという考え方で開発には臨んでいます。
ー最近うれしかったお客様の反応などはありますか?
その機能を活用しているご家族の方から、感謝を伝えられたときはすごくうれしかったですね。
普段どのようなケアを受けているか、職員がどのように利用者と接しているかといったことがケアコラボを通してわかるようになったのが、すごくよかったそうです。
自分自身、ケアコラボの価値を再認識できました。
ー従来は見えづらいケアの内容が、ケアコラボによって見える化されていくのはいいですね。
具体的な例で言えば、夜勤と昼勤のスタッフ間の情報伝達って、結構手間がかかるんです。紙やFAXを使っていたらなおさらです。
それは職員のストレスにも繋がるし、ケアの質の低下にも繋がる。ぎくしゃくした雰囲気も生まれやすくなってしまうんです。
実際にケアコラボを使っている職員の方から、「いまさらFAXとか紙とか電話には戻れない」と言われたときはすごくうれしかったですよ。
開発してよかったと思えた瞬間ですね。
機能の充実と使いやすさを両立させていく
ー今後、ケアコラボをどのように成長させていきたいですか?
例えば、排便が硬い日が続いている、かつ水分摂取量も少ない日が続いている、という利用者の方がいたとしたら、「この3日間、水分摂取量が少ないようです」ということをお知らせするといった機能です。
時系列で記録していくケアコラボの特性を活かし、情報を点ではなく「面」で伝えていくイメージですね。
プロダクトは往々にして、機能を増やすことで満足しがちです。
ただ、それによって使い勝手が悪くなってしまえば本末転倒です。
そこは、改めて見つめ直して、はじめての方でも使いやすいか、直感的に使えるかというのは大事にしていきたいですね。
ー使いやすさは大切ですよね。ICT化の第一歩としても、ケアコラボが多くの施設に選ばれるといいですね。
ICT化は、福祉業界においても重要ですし、少しでも役立てるようにケアコラボの開発に注力してきました。
一方でこの数年で、ICT化への理解がまだまだ進んでいない現実にもぶつかってきました。
“社会をよくする”という大きな挑戦には、価値観の相違や、ある種の理不尽さはつきまとうものだな、というのをつくづく思います。
ー福祉業界でICT化に努める方々も、少なからず似たような思いは抱いているかもしれませんね。
なにはなくとも、まずはケアコラボを成長させて、ICT化の普及に尽力していきたいですね。
ー深い思いのこもったケアコラボによって、ICT化が進むことを願っています。本日は貴重なお話をありがとうございました!
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