ICT化の取り組み

いざという時に本当に役立つBCPへ。リスクマネジャーが語る介護事業所の「LINE WORKS」活用事例

ワークスモバイルジャパン株式会社主催で2023年5月に実施された「施設介護サービス向け 実効性のあるBCPセミナー」では、東京海上日動ベターライフサービス株式会社の企画部次長兼コンプラリスク管理グループリーダーの三上 信氏が登壇し、BCP策定のポイントや研修・訓練の事例など、BCPの実効性を高めるための取り組みについて語っていただきました。

今回はこちらのセミナーレポートとして、当日お話いただいた内容を要約してお伝えいたします。
当セミナーは介護従事者向けオンラインイベント「介護の新常識 学びウィーク」にて配信中です。

介護事業所のBCP策定義務化まで残り半年

2021年の介護報酬改定において、BCPの策定や研修・訓練の実施が2024年4月から義務化され、介護サービスを提供するすべての施設・事業所に対応が求められています。
義務化まで半年を切り、対応に追われている事業所も少なくないでしょう。
また、すでに策定済みの事業所でも、研修・訓練の実施方法など有事の際に本当に役立つBCPとなっているのか不安を抱えている事業所もあるかもしれません。

三上 信 氏
東京海上日動ベターライフサービス株式会社 企画部
次長兼コンプラ・リスク管理グループリーダー(ISO主任審査員【QMS】【EMS】)

【ご活動内容】
都内の区役所にて高齢福祉/教育行政に携わったのち、外資系のISO審査機関に転職、主に介護施設、病院、公共施設のISO取得に関する審査員・コンサルタントに従事。
その他プライバシーマーク取得コンサルタント、労働安全衛生(OHSAS)、食品衛生(HACCP)等のマネジメントシステムのコンサルタントなどの経験を積み、東京海上日動サミュエル(現東京海上日動ベターライフサービス)株式会社に転職。
入社以来、コンプラ・リスク管理関連の責任者として、主にコンプライアンス、リスク管理、法務などの内部統制関連業務に従事しており、現在はISO審査員などの経験をもとに介護事業者向けのBCPセミナー等の講師も務めている。

東京海上日動ベターライフサービス株式会社(以下、東京海上日動ベターライフサービス社)「東京海上グループの総合介護事業会社」として2016年7月に設立した企業です。訪問・居宅介護事業、介護付き有料老人ホーム事業、サービス付き高齢者向け住宅事業、法人・企画向けソリューション事業の4つの介護事業を展開しています。

BCPの実効性を高めるために意識すべきこと

セミナーの第1章では、災害発生時には特有の業務が発生するため、誰が、いつ、何をするかの役割分担を明確にしておくことや、電気やガスなどのライフラインが止まった場合の具体的な対応策を検討することなど、想定される事態に対して深堀することの重要性ついて説明します。

東京海上日動ベターライフサービス社では、BCP策定において、いざという時に実際に職員が使えるルールとなっているのか、業務継続の判断基準が明確になっているのかを訓練を通して点検しています。
さらに、策定したBCPのマニュアルは、定期的に組織全体に周知徹底し、いつでもどこからでも確認できる場所に保管しています。

東日本大震災時に明らかになった既存の連絡手段の課題

第2章では、災害時の連絡手段の重要性について東京海上日動ベターライフサービス社での実体験をもとに説明します。

東京海上日動ベターライフサービス社では事業所が複数の県にまたがっているため、災害時の連絡手段の確保が重要な課題となっていました。
3.11の東日本大震災時には、神奈川県の施設長が本社や長野県の施設長に状況確認のため電話をかけましたが、待機命令や外出などで連絡が取れないという事例がありました。
当時は連絡のルールも電話以外の連絡手段もなかったため、必要な時にすぐに連絡が取れないという反省点が見つかり、事業所の被害状況をタイムリーに確認するため、連絡ツールを検討するきっかけとなりました。

当時、社内で使っていたイントラネットには社外からのログインができなかったため、外出先から社内メールや情報の閲覧ができませんでした。
また、導入していた「安否確認システム」は 安否集計には適していましたが、 双方向のやり取りには不向きでした。
そこで、既存の災害時に強い連絡手段として「IP無線機」を導入しましたが、夜間など常に職員の手元にあるわけではないという問題がありました。

災害が発生した場合、安否確認や建物の被害の確認、職員へ業務の指示を出すなど、連絡する回数は増えるでしょう。
しかし災害時では、通常の連絡手段が使えない場合が多くあるため、複数の連絡手段を確保することを検討しました。

災害時の連絡手段として有効な「LINE WORKS」

代替手段として検討されたのが「LINE WORKS(ラインワークス)」です。
総務省から2016年の熊本地震において、SNSやチャットが有効であるという調査結果が発表されたことをきっかけに導入へと至りました。

LINE WORKSは、LINEと同じような操作感でチャットやスタンプのほか、掲示板、カレンダー、アンケート、アドレス帳などの機能が1つのアプリに備わっています。
パソコンやスマホ、タブレットなどあらゆるデバイスで、手軽にいつでもどこでもチャットやビデオ通話ができるため、外出中や時間外であっても、報告や連絡、相談が可能です。
またタイムリーにやりとりできるため、災害時にも有効的に活用できます。
現在、東京海上日動ベターライフサービス社では以下のように連絡手段を使い分けています。

・「LINE WORKS」
対策本部と各事業所の連絡手段の第一選択肢。対象者は対策本部、リスク担当、システム担当。支配人、マネージャー、調理責任者。

・「IP無線機」
電話がつながらない場合の事業所、本社連絡用。設置場所は本社、社長自宅、各事業所。

・「安否確認システム」
社員の安否確認や社員の連絡手段として活用。対象者は全職員。

連絡手段が複数ある場合には使い分けの課題も出てきますが、事前にそれぞれの特徴を生かした用途を決めておくことで、BCPの実効性をより高めることができます。

災害発生時におけるLINE WORKSの活用例

災害時の被害状況を確認する時に、電話の場合は1対1でのやりとりしかできないというデメリットがあります。
複数の事業所や他県の本部と、個々に連絡を取らなくてはいけません。

しかしLINE WORKSなら、1対1のトークだけではなく「グループトーク」を利用することで複数人が同時にコミュニケーションを取ることができます。
施設の規模に関係なく一度にグループ全員への情報共有ができるため、緊急時は特に有効です。
情報周知の目的に合わせてグループを作成すれば、より効果的に情報を伝えることもできます。

東京海上日動ベターライフサービス社では、災害対策本部、施設責任者(施設長、マネージャー、調理責任者など)、 在宅責任者(所長、管理者)のグループといった役割によってグループを作成しています。

■台風上陸が予想される場合

  1. 対策本部のグループで、リスク担当者が台風の情報提供と注意喚起。
  2. 施設グループで、設備担当者が排水溝の掃除など事前対策を指示。
  3. 施設グループで、施設部門部門長が安全第一でシフトやケアの調整をするよう指示。
  4. 各施設長は施設グループで、職員の帰宅や食事の提供時間などを調整したことを書き込み、全メンバーに共有。

また災害対策本部のメンバーを全てのグループに入れることで各グループのやり取り全体をつぶさに把握でき、個別に問い合わせをする必要もなくなります。
さらに、施設グループには、他の施設長や本社の関連するメンバーも入れば、現場の状況確認が可能です。

そしてLINE WORKSは、テキストだけではなく写真や動画も一緒に送れるため、災害の状況を視覚的に把握できます。
また、発信したメッセージに対して、誰が既読で誰が未読なのかまで判別できるため、必要な人に情報がちゃんと伝わっているかが確認でき、災害時には非常に有効です。

(左図)東京海上日動ベターライフサービス社の施設介護グループのトーク画面
(右図)既読・未読メンバーの確認イメージ

情報収集に役立つさまざまな機能

LINE WORKSでは、災害時の情報収集にも役に立つ機能が多く備わっています。
東京海上日動ベターライフサービス社では以下の機能を有効的に使っています。

・「アンケート」
事業所の被害状況の報告にアンケートを活用すれば、建物や屋内の被害状況もチェック項目で簡単に報告ができます。
また特記事項があれば、テキストを打ち込むこともできます。アンケート回答の結果は自動で集計されるので、瞬時に状況を確認することが可能です。

・「掲示板」
掲示板に行政防災ポータルなどのURLや災害時のチェックリスト、役割分担などの情報をまとめて掲示し共有しておけば、必要な情報に素早くアクセスできるため災害時の迅速な行動につながります。

第3章では、LINE WORKSやIP無線機などの連絡手段を活用した「小さい訓練」や、自家発電機の給油を行うような「規模の大きい訓練」の具体例を紹介しながら研修・訓練の実施ポイントを紹介しています。

義務化は目前。BCP策定がまだの事業所はすぐに対応を

BCPの策定において、情報手段の複数化・情報共有の効率化は非常に重要です。
LINE WORKSは災害時以外でも普段の介護業務でも活用できます。
平時からの積極的な活用が有事の際に役立ちます。
2024年4月のBCP策定の完全義務化に向けて連絡手段の整備まで含めて取り組みを進めていきましょう。

●介護従事者向けオンラインイベント「介護の新常識 学びウィーク」では、本記事で紹介した「施設介護サービス向け 実効性のあるBCPセミナー」が開催期間中いつでも視聴できます。

ABOUT ME
鎌上織愛
オフィス鎌上主宰。取材ライター兼キャリアカウンセラーとして、福祉業界の求人広告やインタビュー記事のライティング、学生や女性を中心とした就活支援に従事。専門学校生や転職希望者向け就活講座やライティングに関する講座にも登壇し、講師としても活動する。 またこれまでの経験を活かし、福祉業界やスタートアップベンチャーに特化したフリーリクルーターとして、企業や団体の採用支援を行っている。