お役立ち

「全員が使えるようになるまで諦めずに支援する」清水さんのICT化への挑戦

福祉の現場でICTを推進する人の経験をオープンにするシリーズ。

今回は自法人内での理想を叶えるために、サイボウズの提供するkintoneでシステムを内製した清水さんにお話をうかがいました。
社会福祉士から見たICT、推進のポリシーを聞いてみました。
ICT推進の勇気づけになれば幸いです。

医療法人 陽仁会 上靑木中央醫院
デイサービスセンターひだまりの郷南前川
清水 信貴さん
(社会福祉士/精神保健福祉士/介護支援専門員/医療連携室所属/kintone認定アプリデザインスペシャリスト/サイボウズ公認 kintoneエバンジェリスト/福祉の現場ICT活用協議会社員/地域連携看護師会ICT担当)
Twitter → https://twitter.com/swictsolu
note → https://note.com/mswnet

ICTとのかかわりのきっかけ

ー本日はどうぞよろしくお願いします。
ー福祉の現場でのICT化に積極的な清水さんですが、元々IT関連のお仕事などされていたのでしょうか?

実はIT関連の仕事へついたことはなく、新卒から福祉関係の仕事をはじめました。
25年以上前にPower Macを触ったことがきっかけで、パソコンを使い始めました。
ISDNでゆっくりとホームページが表示される時代ですね。笑
当時はパソコンをする人=オタクのようなイメージで、一般的なものではありませんでした。

ー仕事でもパソコンを使う機会がありましたか?

新卒で働き始めた施設での経験が最初になります。
「若いからパソコンできるよね!」といった印象から、パソコンを利用する事務作業を任されました。
エクセルやワードが使えたので、表計算やチラシづくりを担当しました。
もちろん社内SEなんていませんので、目の前の課題を解決するために、その都度自分で勉強して覚えていきましたね。

ー解決したい課題ありきでICT化を進めていかれたんですね。

はい、ちょうど15年くらい前に、訪問診療クリニックで情報をデータベース化する必要性を感じました。
その時にMicrosoftのアクセスを勉強しましたが、作り込みが中途半端で実際に現場で稼働するまでには至りませんでした。
でも、この時に覚えた知識や経験が今に活きていて、kintoneの導入に役立ちました。

ー現在はどういったツールを使われていますか?

ファイル管理でDropbox、情報共有にMedical Care Stationkintoneなどを利用しています。
管理部門・事務部門向けのツールがほとんどですが、kintoneは現場でも使われています。

kintoneの導入

ー福祉の現場で最もkintoneを活用されている方のうちのお一人かと思いますが、導入の経緯などお聞かせください。

3年前に、法人内(現職)のデイサービスを一新するプロジェクトがはじまりました。
今までの決まりきった予定をこなしていくスタイルではなく、ご利用者が来られた時に、個別にやりたいことが選べるデイサービスにしたかったんです。
ただ、利用者様自らが選択したスケジュールをうまく管理できるシステムがないかを探した結果、実現したいことに見合ったシステムを見つけることはできませんでした。

ならば自分たちの理想を叶えるために自らシステム構築するしかないと思い立ち、kintoneでのシステム構築に無謀にも乗り出しました。

kintoneはサイボウズ社の提供する業務改善プラットフォームです。
プログラミングの知識がなくても、さまざまなアプリを自作することができます。
kintone公式サイト

清水さんから実際に運用しているkintoneの画面をいただきました。
利用者のスケジュールやカルテ、近隣の医療機関マップなどのアプリを作られています。
※画像をクリックすると拡大できます

スケジュール
スケジュール
利用者カルテ
近隣の医療機関

ーアプリを自作して導入するまではたいへんかと思いますが、実際のところいかがでしたか?

どのツールもですが、導入にあたって、全員がスムーズに使えるということはありません。
最初はどうしても使えない職員も出てきますので、使える職員から巻き込んでいきました。
でも全員が反対する、という状況もなかなかないと思います。
まずは、意欲的な若手職員を味方につけて拡大していきましたね。

ー全体的に導入を進めていかれたんでしょうか?

いえ、一つづつ順番に紙からの移行を進めていきました。
1年半くらいかけてコツコツとやりましたね。
その過程がすごくおもしろかったです。
紙でしかできていなかったことをデジタル化することで、現場から「あれもできないの?」「これもできないの?」と声が上がるようになりました。
職員の中に眠っていた「実現したい事」がシステムによって呼び覚まされたと感じました。

ある程度システムが形になった事もあり、最後の半年くらいは、別の担当者に業務を任せるようにしました。
ただその担当者が退職してしまい、今現在改善は止まっている状況です。
内製をされるのであれば、常に改善できるように担当者を育てていく必要があります。
内製は自由度と引き換えにそういった課題があると実感しました。

全員が使えるまで諦めない

ーうまく使えない人をどうフォローしていきましたか?

そういった方はどこかで落ち込んだり怒っていたりします。見かけては個別にお話をしていきました。
「困っていることがありますか?」と聞いてみると、「キーボードがニガテで…」などとおっしゃいます。
そういった方には音声入力を教えたり、入力は他の人に任せたりします。
kintoneはユーザーインターフェースが分かりやすいので、見るだけなら誰でもできます。
うまく使えない人をちゃんとフォローする姿勢は周りにも伝わります。
担当者の対応が悪いとシステム自体を使わないという反発を招いてしまいます。

使いたがらない方は、たいてい「壊しちゃったらどうしよう…」「消えちゃうと…」など他の方へ迷惑をかけることを恐れています。
「もしそういうことがあったら聞いてください。履歴から復元することもできます」と伝えています。
職場の中に聞けば分かるという人がいる安心感を与えてあげることが重要です。

特に内製の場合、ここは業者ではなく法人内に推進の担当者を置くことが必須になります。
最初はそういう役職はありませんでしたが、進めていくうちに自然とできてきました。

ー全員が使いこなすまでにどのくらいの期間を要しましたか?

全員が全員「使いこなせる」必要はないと思っています。
どうしてもできないことがあれば、できる人と分担して協力すればいいからです。
できなかった人は、できることが増えていくと楽しくなりますしね。
できる人が増えると、それに応じて今までできなかった人ができるようになっていきます。
できそうな人から順番に抑えていくことが重要かと思いますね。

合わせて絶対に諦めないという姿勢を持つことが重要です。
できない人はICTツールやコミュニケーションツールを使わないという判断はダメですね。
その人だけ情報から分断されることになります。
それはサービスの低下を招いてしまいます。
全員が使える状況になるまで、絶対に諦めずにフォローしていきます。

できることから信頼を積み上げる

ーICTの担当者として重要なポイントはありますか?

信頼を積み上げることだと思います。
チラシの作成など慣れてない人からすれば2、3日かかってしまいますが、慣れている人は2時間で終わらせれます。
そういった小さな課題を解消していくうちに、信頼が積み上がっていきます。
そうすると「この人になら聞いても悪い対応はされないな」と信頼されるようになります。

ー担当者としてはどのくらいのスキルが必要でしょうか?

スキルは相対的なものだと考えています。
福祉業界ではパソコンが得意な職員が少ない事業所もあります。
もしかしたら、SUM関数が使えるだけでもスキルが高いと思われる場面もあるかもしれません。
ワード・エクセルができるだけでも、相談役になれる環境にいる方もいるのではないでしょうか。

ーどういったスキルが必要になると考えられますか?

今の事業所にどういった課題があるか次第だと思います。
小さな課題を見つけて、それを解決するためのスキルが必要になります。
急に大きな課題に対応できる必要はないので、まずはチラシの作成や計算の自動化などから始めるのがいいと思います。

ーなるほど、では課題を見つける方法や工夫はありますでしょうか?

会議の場になるべく顔を出すことですね。
現場職員だけだと、ICTを使って解決できるという発想に至りません。
会議は課題を話し合う場所ですので、参加することで解決策を提案できます。
課題にこちらから飛び込む姿勢が重要です。
呼ばれてない会議にも行くようにしていますね。笑

福祉×ICTとは

ー清水さんにとって「福祉×ICT」とはどういったものでしょうか?

ソーシャルワークですね。
ICT活用については、社会福祉士として取り組んでいます。
士業とICTが一本としてつながっているイメージです。
社会福祉士としては、情報が平等に行き渡るようにすることが重要だと思っています。

たとえばZoomが普及したおかげで参加できる勉強会が増えました。
住んでいる地域や、子育てや介護中などで参加できなかった方が参加する機会が多くなりました。
学ぶことをあきらめないでいい社会に近づいた印象です。

kintoneだと自分たちで現場を変えていけるという感覚を持てるようになりました。
時間削減やペーパーレスではなく、エンパワメントを実感しています。
エンパワメントとは、できなかったことができるようになるということです。
できてたことがよりラクになる、ではありません。
自分の専門性を生かし、やりたい事ができる世界は人にパワーを与えてくれます。
「使えなくてもいいよ」というのは、パワーレスになってしまう。
全員が使いこなせなくとも、同じ情報を参照できるレベルになるまで諦めないことが大切です。
こういった姿勢ができない人もできるようになるという感覚を持ってもらうことにつながります。

ICTの導入は茨の道です。
でも乗り越えた先の世界を知っちゃうとやめられないですね。
それができるICT担当者は貴重かつ重要な立場と言えるのではないでしょうか。
ここの苦労話は他の方も交えて対談してみたいですね。

福祉の現場ICT活用協議会について

ー協議会に参加していてよかったことを教えてください。

カンファレンス動画のアーカイブが残っているのがいいと思います。
特にインカムはどれを選んでいいか分からなかったので、選定の参考になりました。
ベンダーとユーザーが一緒に出てるのも良かったですね。
実際のユーザーの声は貴重ですし、ベンダーも同席すれば仕様や価格などの情報が正確になります。

会員サイトは質問がもうちょっと増えたり、盛り上がるといいですね。
活用に関するちょっとした自慢とかも発信できるといいなと思います。

インタビュー後の感想

清水さんにお話をうかがい、ICTの推進はあくまで手段でしかなく、課題の解決や理想の実現が目的だということに気付きました。
大きな変革を目指すのではなく、目の前の課題を解消するためにコツコツと積み上げることが重要だと感じました。
「使えない人がいてもいい」ではなく、「使えるようになるまで絶対に諦めずに支援する」姿勢にも感銘を受け、これからICTを推進する方も参考にできる部分が多くあったと思います。
システムの内製だけに限らず、パッケージの製品を導入する場合も同じことが言えるのではないでしょうか?

今後も福祉×ICTの最前線の人たちにインタビューしていきますので、楽しみにお待ちください!