ICT化の取り組み

「プロとして人と向き合うため」本質を伝え、楽しむ気持ちも忘れない濱口さんのICT活用の道

福祉の現場でICTを推進する人の経験をオープンにするシリーズ。

今回は、介護付有料老人ホームの施設長であり、グループ会社内でICT担当として日々活用の推進に取り組んでいらっしゃる濱口さんにお話をうかがいました。

有限会社 ウェルフェア三重

濱口 新太郎さん
(資格/介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員・介護付有料老人ホーム 施設長/グループ会社内 ICT活用委員会委員長/ 福祉の現場ICT活用協議会社員

急ピッチで取り組んでいるICT活用推進

ー本日はよろしくお願いいたします。まずは濱口さんの今のお仕事内容を教えてください。

介護付有料老人ホームの施設長をしています。
また、令和3年度からグループ会社内のICT活用委員会の委員長になりました。
グループ社内にもう1人、ICT活用の推進に精力的な施設長がいるので、2人で役割分担をしながら進めています。
委員会の動きとしては、AIケアプランの導入の検討や、ナースコール・センサー・見守りカメラ・インカムなどをスマートフォン1台で完結できるようにしていきたいと考えていて、整備を進めています。
今年度のIT導入補助金の申請業務も担当しました。

ーいつ頃からICT担当として活動されていますか?

4年前に、ICT活用委員会が発足してからですね。

ー現在のお仕事をされる前に、IT関連のお仕事をされていましたか?

いえ、介護の仕事をする前は小売業をしていました。
そのあとに公立の介護施設で8年間、介護職や生活相談員として働いていて、今の会社に入ってから今年でちょうど10年目になります。

今の仕事につながる原体験はゲーム

ーICT活用の推進にかかわるきっかけはなんでしたか?

学生の頃に機関紙の編集長をしていて、毎月小冊子を発行していました。
学校を卒業してからも人に頼まれることがあって、それがきっかけでAppleのパソコンを触りました。
まだWindowsがない頃です。
それまではワープロを使っていたので、Page Makerを初めて使ったときに、これはすごい!と興奮しました。
それから、
File Makerを触らせてもらったりして、データの集積について勉強したりしました。
仕事でちょっとだけレンタルサーバーの営業をしていた時期もあって、そのときはインターネット白書を自腹で買って、ケーブルが世界中に張っている図を見て驚きましたね。
小売業の仕事をしていたときも、他にパソコンに詳しい人がいなかったので、自然とみんなにExcelの使い方などを教える役割をしていました。

ー先駆けて活用されていたんですね!

そんなにたいそうなことではないですが、遡ると、僕らの世代のきっかけはゲームかなと思います。
当時、FM-7というPCを友達のお父さんが持っていて、ゲームが入っていたのはカセットテープだったんですね。
それを読み込むのに、テープの「ピーピーガーガー」いう音を聞きながら30分から1時間、みんなでじーっと待っていました。
そのあと紙フロッピーディスクが出回るようになって、当時20cm四方くらいですごく大きかったんですが、10秒でゲームが出来るようになって。
画期的で、友達みんなで拍手しましたよ。

ー30分が10秒は大きなインパクトです。
そのような原体験が今のお仕事にも繋がっていらっしゃるんですね。

そうですね。
これからkintoneを導入する予定ですが、早く触りたくてしょうがないです。
すごく楽しみにしています。

kintoneはサイボウズ社の提供する業務改善プラットフォームです。
プログラミングの知識がなくても、さまざまなアプリを自作することができます。
kintone公式サイト

本質的な目的をきちんと伝える

ー今使われているツールはなんですか?

チャットツールはChatworkLINE WORKS、ケア記録システムはケアコラボ、Web会議はZoomです。
IT導入補助金は、kintoneと、勤怠管理でkinconeを申請しました。
互換性の問題でサイボウズに揃えることに決めました。
給与支払いについてはこれから詰めていきます。

チャットツールについては、主に社内ではLINE WORKS、社外ではChatworkを使っています。
コストの面から、今後どうしていくかは検討中といったところです。

また、実務者研修も開催していて、今回はじめてZoomを使って一部オンラインで開催しています。

ーなるほど。今使われているツールを選ばれた経緯はありますか?

Chatworkは、この福祉の現場ICT活用協議会がきっかけだったと思います。
社外で使っている方が多いので、その流れで使っています。
ケアコラボは、社長からプロジェクトとして情報収集を任せていただいて、実際に使っている事業所をいくつか他の推進メンバーと一緒に見学に行きました。

コロナ禍における対応として、Zoomを活用してリモートで初詣を実践しています。

ー新しいものを導入する際の現場に対して、どう対応されていますか?

ケアコラボの導入については、1番のメリットは家族公開機能だと考えています。
その本質的な目的は押さえつつ、まずは、事業所の管理者に、費用対効果や業務軽減について説明して、必要性を理解してもらいます。
どのくらいペーパーレスに繋がるか、どのくらい記録に要している時間が削減されるかなど、ざっくりとでも計算して把握していただくような説明を心がけています。

例えばケアコラボを導入するにあたっては、職員1人あたり30分の時間短縮になったとすると、出勤している職員数をかけて、月や年単位で計算する。
そうするとどれくらいの時間が短縮されたかが目で見て分かります。
それを時給換算で計算したら費用対効果も分かるので、大まかであっても、数字で表して伝えるのは1つ有効な手段だと思います。

ケアコラボはケアコラボ社の提供する、スマホやタブレット、パソコンで使えるケア記録システムです。
指定した記録はご家族にも共有することができ、記録に対してコメントをいただくこともできます。
ケアコラボ公式サイト

ーデータを元に説明されているのですね。

はい。あとは、管理者と一緒に推進していくメンバーが何人か必要だと感じます。
現場の職員に対しては、今までやりたいと思っても時間がなくて出来なかったことを「これだけ時間短縮したら出来るよ」と具体的なメリットを含めて説明するようにしています。
そして、実際に使っているときに「あ、これ楽やな」という小さな声が聞こえたら、その声を「ね!やったかいがあったでしょ!」と、拡声器で広げます(笑)
そんな感じで
ポジティブな空気を生み出すのは結構ポイントだと考えています。
でももちろん、逆にネガティブな声もあるので、それもきちんと拾って、増やさないことにも注意が必要が大切ですね。

ーネガティブな声に対してはどのようにかかわっていますか?

放置しないで、解消できるように働きかけます。
放置しているとどんどん大きくなってくるんですよね。
私たちも取り組んでいる最中ですが、新しい試みやツールに慣れてくれば解決するだろう、とそのままにしてしまうと、最初は1だった意見がどんどんと広がっていきます。
地道になりますが、1対1で困りごとに向き合って、改善案を模索したり、意見を聞いたりすることが必要だと思っています。

人に向き合う時間を生み出すためのICT活用

ーICT活用推進の担当者として、重要だと思うポイントはなんですか?

やはり、何のためにICTを導入するのかという目的を見失わないようにすることです。
私たちが介護のプロとして、本来やるべきことに集中出来るようにICTを活用するのであって、楽をしようとか、経費を削減しようとか、人を少なくして人件費を削減しようとすることではないということを、ぶれずに伝えていかなければいけないと思っています。
本来やるべきことはなにかというと、入居者の方にどう寄り添うのか、どう声をかけるのか、この方はなぜ毎日この時間に決まった行動をとるんだろうとか、そういったことに眼を向けていかないといけない。
これまで、忙しいからと現場の都合で放っておいたことに関して、きちんとケアしていくということがICT活用推進の理由だと思っています。
これまで他のことに使っていた時間を、人に向き合う時間として使うべきだということですね。

ーなるほど。では担当者として、どういったスキルが求められると感じますか?

おもろそうにやるのが大事ではないかと思います。
私自身が悲壮感漂ってたら、みんな「難しそうやな」という空気になってくるじゃないですか。
それなので
「うわー!かっちょえー」とか「うわ!すっげー」とか言いながら取り組もうと心がけています。
小難しく話すよりは、感嘆詞を多く使って話すように努めようと思っています。まだまだ修行中ですが(笑)

ー現場の課題を見つける方法や、工夫されていることはありますか?

私自身が現場に入っているので把握しやすく、何かあれば職員の方から直接言いに来ることも多いです。

それから、生活相談員をしていたときに学んだのですが、現場には入居者の方の困りごとだけではなくて、職員の困りごともたくさんあるんですよね。
なので、生活相談員には「職員が何か困っていることがないか」という視点も持つように伝えています。
設備でも、人でも、何でもいいですが、どういうことに困っているのか気づいたら伝えてほしいと話しています。困りごとを放置しないということは大切ですよね。

ー今後の福祉現場でのICT活用の可能性について、どう思われますか?

ダイバーシティが進んでいくと思います。
今、技能実習生として外国の方の受け入れが進んでいますが、これからますます増えていきます。
また、障害のある方が介護現場に立つときのハードルを、どう解消するかについてもICTに出来ることがあるのではないかと考えています。
例えば、耳が聞こえない方が働く場合に、それをサポートするツールがあれば介護の仕事にも就けるわけです。
ですから、ますます多様な人々にとって働きやすい現場環境を整えるというのが、ICT活用のこれからではないかと思います。
もちろん入居者の方にとっても、自立支援のための介護ロボットなどの開発が進んでいますから、受けられるサービスの幅が広がっていくと思います。

福祉現場でのICT活用の道

ー福祉の現場ICT活用協議会に参加してよかったことはなんですか?

会員サイトでの情報交換がとてもいいと思います。
スイッチが入るとついていくのが大変なくらいみなさんの熱量がすごくて、楽しいです(笑)
スレッドを見ていると時々知らなかった単語も出てきて、新たな学びにもなります。
月1回オンライン飲み会したいくらい、ICT担当としての本音を話せる仲間が集まっている感覚です。

ー最後に、これからICT活用を推進していく方へのアドバイスをお願いします!

案ずるなかれ、案ずるは道はなし、です。あ、これはアントニオ猪木先生のパクリですね(笑)

アントニオ猪木 『道』

この道をゆけばどうなるものか、危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし、踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。迷わず行けよ 行けばわかるさ。

正直、「今のICT活用推進の流れに乗らなければならない」という考え方なら、必ずしもそこまでして進めなくてもいいのではないか思っています。
やはり、スマホを使い慣れていない年代の職員さんもいますし、まだまだ操作も複雑です。
もっと開発が進んで、例えばよくSFで出てくるようなVRで感覚的に操作出来るもののような、もっと感覚的に使いやすいものが出てくるまでは、二極化も致し方ないのかなと考えています。

まぁでも、昔の、あの大きい紙フロッピーでゲームをしていた頃に比べたら、意外とそんなに難しくないんじゃないかと思いますよ(笑)
案ずることなく飛び込めば、いろいろと便利になったときにその便利さが、より実感出来るのではないかとも思います。

インタビュー後の感想

濱口さんにお話しをうかがい、とにかく楽しそうにお話されるのがとても印象的でした。
原体験がゲームということもあり、新しいツールについても、とにかくご自身がワクワクされていることがパソコンの画面越しに伝わってきて、私も楽しい気持ちになりました。
ポジティブな空気だけではなく、目的を常に意識し、「介護のプロとして、本来やるべきことに集中出来るようにICTを活用する」というお話や、「今の流れだけを意識しているならば必ずしもICTを推進する必要はない」といったお考えは、福祉現場でのICT活用の本質を突いた視点で、参考になった方も多いのではないかと思います。

今後も福祉×ICTの最前線の人たちにインタビューしていきますので、楽しみにお待ちください!

ABOUT ME
古畑 佑奈
2011年社会福祉法人へ入職、特養の生活相談員や、訪問介護員、介護職員のマネジメントを経験。現場での知識や経験を生かして、福祉や介護業界に役立つ情報を発信したいという思いから、2020年より介護系ライターとしての活動を開始。社会福祉士・介護支援専門員。