高齢化やIT化の進行、コロナ禍、世界的な物価高など、目まぐるしく時代が流れる昨今。
福祉業界においても、急速な変化が同じように生じてきています。
特に現場で感じる利用者のニーズ変化に対し、施設側はこの先どのように考え対応していくべきなのでしょうか。
その変化を医療面と法律面から考えるため、現場の施設長と医療・法律それぞれの専門家と鼎談を行いました。
今後も変化していく福祉施設のあり方を、一緒に考えてみませんか。
【鼎談参加者プロフィール】
三重県の有限会社ウェルフェア三重が運営する、介護付有料老人ホーム「みなみいせ」の施設長。
弁護士法人かなめの代表弁護士。
ChatWorkを利用し、介護事業所・幼保事業所向けに特化した法務サービス「かなめねっと」などの事業を展開する。
ドクターメイト株式会社代表取締役、医師。
介護事業所向けにオンライン医療相談や夜間オンコール代行などの医療サービスを提供する。
利用者のIT機器の取り扱いトラブルは、ルールを設けて防止対策を
持ち込みによって医療機器へ影響があるのか、また何かトラブルがあった場合、現場はどのように対応するのが適切なのでしょうか?
医療、法律、それぞれの立場から教えてください。
現在はデバイスそのものが進化しており、それらのIT機器がペースメーカーなどの医療機器に影響することはほぼないと言えるでしょう。
よほど古い型の場合は影響がゼロですと言い切れませんが、以前に比べるとリスクは減ってきていますよ。
ただスマホで撮影した写真をSNSにアップすることで、他の利用者さんや職員の方のプライバシーの侵害をしてしまう、という問題が出てくることは考えられます。
機器の持ち込みについての制限はできないので、利用に関するルールを施設側で設けた方がいいと思いますね。
利用者の方で入居後に認知症が進み、ネットでどんどん買い物をしてしまうというというケースがありました。クレジットカードを使えなくしたり、サイトの方に連絡して発注できないよう連絡したりと対策をし、今は後見人を立てて対応をお願いしています。
以前は外との連絡は電話が主だったので、制限がしやすかったんですよね。
ICTを活用し、利用者家族との信頼を築く
ケアコラボにアクセスすれば、日々の記録をご家族が閲覧でき、いいねやコメントを通じたコミュニケーションもできます。
例えば、よく転倒する方もご家族がケアコラボで普段の様子を知っているので、転倒したと連絡をしても介護体制についての疑いの目はありません。
日々の介護記録をご家族が普段から見られるようになったおかげで、ご家族との協力体制が取りやすく、とても良い信頼関係が築けていると感じています。
情報をご家族などへ開示することで、医療面、法律面での変化はありますか?
原因不明の負傷の場合、情報の透明性を確保することが重要です。そのために必要なのは、事前にご家族に普段の様子をシェアしておくこと。
普段からコミュニケーションをしっかり取れていると施設への信頼も高く、何かあった時のご家族の納得感が違います。
令和3年度の介護報酬改定の中に高齢者虐待についての施策が義務化されていますので、疑いがあるものまでしっかり調査するようになっています。
そのため今は原因不明の負傷から虐待を疑われてしまう施設が増えてきています。
このような虐待を疑われた場合も、介護記録をしっかり付け公開しておけばそのリスクを減らせます。
起きてからの後始末ではなく、起きる前の前始末をいかに丁寧にするかが重要になってきます。
負傷した部分の写真が一枚あれば「内出血」と文字で書くより、分かりやすく伝わります。
経過も記録でき、報告書の文章量が減って現場は楽になりましたね。
もちろん撮影するときはプライバシーを考慮しています。
また動画も医師と連携を取る際に便利です。
何が原因か分からないけど普段と違うと職員から連絡をもらう時は、出来るだけ動画を撮るように指示しています。
医師からも分かりやすいと評価されますね。
記録を見ながら判断でき、医療者としてもリスクを減らせるため医師とも良い関係が構築できます。
記録することで観察のポイントなどをフィードバックできる面も良いですね。
職員は介護記録をやらされていると思う方も多いかもしれませんが、リスク軽減や職員の教育効果は高いと思います。
職員が動画を撮れなかった時の重要な記録にもなります。
プライベートの問題や、そもそも監視されているようで嫌だ、という意見があるかもしれませんが、何かが起きた時の証拠として動画や画像があると説得力が違います。
利用者、ご家族、職員のためにもこれから一般的になっていくと思いますね。
ただ、利用者の居室内をどうするのかは課題だと思っています。
一番事故や虐待が起きる可能性が高いですが、プライベートな空間をどこまで記録しオープンにするかが難問です。
ICTを利用し気軽に専門家とコミュニケーションができる環境を
医療・法律的に見て効率化、生産性を追い求めるのはどうでしょうか?
導入したからといって全ての問題がパッと解決できる訳ではありません。
今はみなさんがDXという言葉にかなり振り回されていると感じています。
その解決のためにも導入先と事業者の間を繋いでくれる人が必要だと思いますね。
導入後に使われなくなってしまうケースが多いのが残念です。
業者の方は導入したら終わりということが多いのが残念です。
ICT化を広げるには利用者の方に向き合う時間を増やすにはどうすれば良いか、という施設内で共通の目的を設定することだと思います。
ICT化と聞くと近未来的な世界を想像し、難しい!というイメージがあるかもしれません。
しかし、介護は人が人のお世話をしています。コミュニケーションに重きを置いてICTの導入は語られていくべきだと思いますね。
私が「かなめねっと」を始めたきっかけは、介護事業所での研修後にケアマネの方から、法律についてたくさんの質問をLINEでいただいたことでした。
これが現場の求めているICT化や効率化なんだろうと強く感じたんです。
法律でも医療でも餅は餅屋で、自分の仕事以外のことは専門家の人に任せた方がいいですね。
そしてその専門家ともっと気軽にコミュニケーションができるようにすれば、現場は働きやすくなると思います。
ICTでできる仕事は介護職員がやる必要はないですよね。いらない仕事を減らすことで忙しさを解消し、虐待などのトラブルが起こらない環境を作っていきたいと思います。
そこでICTツールが力を発揮しますよね。今、ICTによって現場と専門家の距離を縮める作業をしていただいているのはとても大きいです。このような変化は大歓迎です。
今回はそれぞれの立場からのお話がとても参考になりました。ありがとうございました。
お三方、ご協力いただきましてどうもありがとうございました!
高齢化に伴い入居者の方の重症化が進む中、厚労省からICTを活用し医療負担を軽減しながら、総合的な医療を提供するよう宣言が出ています。今後も介護をめぐる環境は医療面、法律面ともに刻一刻と変わっていくでしょう。
ですがその状況に振り回されることななく、一番は利用者、ご家族のニーズに応える介護ができる環境を作っていくことが大切です。そのためにICTを上手く活用していくことが、より求められていく時代になりそうです。
その変化をもっと自由に発信していける世の中になるよう、福祉の現場ICT活動協議会はICTの価値を向上できるコンテンツをこれからも発信していきます。